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「本音を言えば、このような行為に及んだことは許せません。彼女の人権を軽視した行動だと思っています」
「……おっしゃる通りです」
「ですが、千愛希さんにとっていい上司であるという事実まで曲げないでいただきたいと思います。今回、初めてパソコン内に侵入し新たな技術を学ぶことができました。当然ですが専門職は、その人にしかできないから専門なのです。その素晴らしい技術は、貴方の作るアプリを待っている方のために使ってください」
「それで……いいんですね?」
睦月がおずおずと尋ねると「他にどうしろと?」と、にっこりと笑顔で返された。その目は決して笑ってはおらず、睦月は顔を引きつらせた。
「わかりました……」
睦月は小さくそう言って、胸ポケットからボールペンを取り出すと、書類にサインをしビジネスバッグの中から出した印鑑で捺印をした。
律はそれを受け取ると、サインと捺印を確認してからクリアファイルに戻した。
「確かに受け取りました。では、今後は間違っても彼女の迷惑になるような行為は控えて下さいね。この音声は私の手元においておきます。脅しではありませんが、誓約を破った際は私のリスクも覚悟で全てを千愛希さんに話した上で告訴いたします」
「わかっていますよ……あなたまでリスクを負う必要はありません。正直……まだ諦めはついていません。彼女のことは本当に好きだったんです。守屋さんが私のことを許せなかったように、あんなに悲しそうな顔をさせた守屋さんのことを私も許せなかった」
律はそうだろうな、と思いながら深く頷いた。同時に端から見てもわかるほど、千愛希に辛い思いをさせていたのだと実感した。
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