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まだ記憶に新しい千愛希の表情を思い浮かべながら、自然と頬が緩む。律はそっとスマートフォンを手に取ると、通話を開始させた。
「聞いたよ。結婚式挙げるって? 子供できたって?」
璃空が言葉を発するよりも先に律がそう言った。それから電話を切ったらテレビゲームを始めるつもりで、ゲーム機の電源を入れるとソファに腰掛けた。
「蓮から聞いた?」
「うん。面倒なことになったね」
面倒なのは蓮と七海の結婚についてだ。こんなことでもなければ純粋に璃空と叶衣のお祝いを先にしただろうに。
「……どう思う?」
「まあ、なにか裏があるはあるでしょ。警戒しておくに越したことはない。叶衣は?」
「今、つわり酷くて。辛そう」
叶衣の様子を聞いて少し心配にはなるが、璃空が側にいれば大丈夫だろうとこちらは特段気にかけることはなさそうだ、と律は頷いた。
璃空は当然蓮のことをよく思ってはいないようで、おそらく蓮達の結婚式の方が早く行われるであろうことと、何かあった時には蓮を切り捨てる覚悟もできていると冷静な声色で言った。
「まぁ俺は正しい方につくだけだよ」
「うん。式についてはまた連絡する。叶衣が落ち着いたら、多分律にも会いたがると思う」
「そ。じゃ、喜びそうなもの用意しておく」
ふっと口角を上げると、「ところで自分の方はどうなの?」とすかさず璃空が言う。璃空もあの後からどうなったのか気になっていたのだ。
「とりあえずは上手くいったよ。ありがとうね」
「……」
普段ちゃんと礼を言われることなどない璃空は、一瞬言葉に詰まった後、「……どうしたの? 頭でも打ったか、女に角を削り取られたか」といつも通り失礼な言葉を並べた。
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