初恋

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 律が女性に対して優しくするのは、本当に心を許した人だけ。そんな人物など家族を除けば片手で数えるほどしかいない。それも共通の男友達がいるような信頼できる女友達だけだった。  あとは幼い頃から家族ぐるみの付き合いのある幼なじみ。  性別が女性というだけで、異性として特別な感情をもつことなどあり得なかった。今後もそれはないと断言できた。  だからこそ、まどかに対する自分の気持ちに戸惑いを隠せなかった。  いつからだっただろうか。無意識に周よりも自分を頼ればいいのにと思い始めたのは。こっちを向いて笑いかけてくれたらいいのに、と横顔を見つめるようになったのは。  10年間もストーカーのようにまどかを想い続け、昔のグッズを引っ張り出しては夜な夜な恍惚の表情を浮かべ、交際相手を刑務所送りにし、邪魔者を排除しようとしていた。それが周だと知ったら幻滅するんじゃないか。失望するんじゃないか。  そんなふうに考えた律。可愛く、大切な弟でありながらも、まどかが少しくらい周に恐怖を抱くことを期待した。  歪んだ愛情に怯える可能性も想像した。けれど、律はその真相の全てをまどかに語った。  それで2人が別れることになったとしても……。  その時は無意識で、なんの悪気もなかった。けれどまどかは心底驚いたような顔をして、結局「それって私のことを愛するが故ってことだよね」と受け入れた。  律には到底理解できそうになかった。普通なら恐怖を感じてもおかしくない。ストーカー行為なんて犯罪だと怒ってもおかしくない。しかしまどかはとても嬉しそうに『周に愛されている』事実を喜んだ。
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