初恋

11/19
前へ
/390ページ
次へ
 律はガッカリした。自分でも驚くほどに落胆した。  そこでようやく気付く。  ああ、俺……この人のこと好きなんだ。  初めて抱いた恋愛感情は、自分で気付くにはとても時間のかかるものだった。人々はあまりにも易々と「あの人のことが好き」なんて言うものだから、もっとわかりやすいものだと思っていた。  だけど律のもとにふっと沸いた恋愛感情は、ジリジリと間合いを詰めて、気付いた時にはすぐそこにあった。  それも、弟とその人の仲を壊そうとした時に気付くなんて……。律は自分自身を嫌悪した。  まどかと周を引き合わせたのは、からかい半分ではあったものの、周の喜ぶ顔が見たかったからだ。あんなに好きだった人と結ばれて幸せになるなら、そっと手を差しのべることくらい自分にとってはわけないこと。  それなら協力してあげる。まどかさんも犯罪者と付き合うより周といる方が楽しいでしょ? そんな善意からだったはずなのに。  自分本位の感情で相手を傷付けることをなによりも嫌ってきたはずなのに、律はまさか自分が他人に対して同じことをするなどとは思ってもみなかった。  行動に移してから自己嫌悪する。  2人の幸せを願うのが兄としての自分の役目であって、邪魔をするだなんてもっての他。  周に向ける特別な表情や感情を自分にだけ向けてはくれないかと願うことなど絶対にあってはならないこと。  そう自分に言い聞かせればするほど、律の心は抉られるように痛くなった。 「……なにこれ。恋愛ってつら……」  自室で胸を押さえ、そう呟いた日もあった。まどかの声が聞きたくなって、大した用でもないのに周のことを理由に電話をかけたこともあった。  結局、周とのノロケ話を嬉しそうに聞かせられ、最終的に自分が傷つくとわかっていても、欲望を止められなかった。
/390ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10261人が本棚に入れています
本棚に追加