初恋

12/19
前へ
/390ページ
次へ
 何度となくまどかの夢を見た。自らの願望なのか、夢の中で何度もまどかを抱いた。それは夢とは思えないほどリアルで、現実では誰にも感じたことのない感情だった。  今まで彼女がいなかったわけじゃない。いつも相手の女性から交際を申し込まれる。大体は断るのだけれど、中には人間として一目おける相手もいた。  恋愛感情はないけれど、人として好きという感情なら沸くことは何度かあった。だから、そんな人と付き合ったらいずれはそれが恋愛感情に変化するんじゃないか。そう思って何人かと付き合った。  キスもしたしセックスもした。けれど、それが恋愛感情に変わることはなかった。周とまどかのようにお互いを強く求め合えなくても、穏やかにしっとりと信頼関係を深めていける仲にあれば、付き合った意味もある。そう考える律だったが、いつだって相手の女性はそういうわけにはいかなかった。 「本当に私のこと好きなの!?」 「なんで会いたいって言ってくれないの!?」 「他にも女がいるんじゃないの!?」  そんな言葉を浴びせられる。好きは好きでも、相手の好きとは種類が違う。そこに温度差が生じるのは当然のことで、感情的になって汚い言葉を向けられる度、嫌気が差す。  もういいや、めんどくさい。やっぱり恋愛なんかするもんじゃない。そもそもこれは恋愛じゃなかった。  付き合う度にそんなことを思う。それから数年経ってほとぼりが冷めると、年齢を重ねた分、相手も大人になっているんじゃないか。今度こそちゃんと付き合える相手に巡り会えるんじゃないか。そう思って付き合ってみる。けれどまた同じことの繰り返し。  30歳になる頃には、もう自分は恋愛に向いていない。もしかしたらこのまま一生恋愛感情なんて沸くことはなく、結婚もせずに1人でいるのかもしれない。それもいい、だってそれが1番楽だ。そう思い始めていた。  それなのに、こんなに突然しかも弟の彼女への感情に気付くなんて想像もしていないことだった。
/390ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10261人が本棚に入れています
本棚に追加