初恋

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 律はこの感情を周にもまどかにも悟られないように注意しなければならなかった。この想いが知れれば、今の関係が崩れる。  いい兄としても、1人の男としてもこの先の人生は良い方向に進まないことなど目に見えている。  まどかのことは早々に諦めなければいけない。そう思う律だったが、弟の彼女であり刑事事件にも弁護士として関わっている以上、まどかの顔を見ないことも不可能。顔を見ればまた好きだという感情が顔を出す。  恋愛感情なんて知らなきゃよかった。こんなに辛いなら、誰のことも好きにならず一生恋愛なんて面倒なだけの愚かな行為だと見下して生きていく人生の方がよかった。律は顔を歪め、必死に胸の痛みに耐えた。  その頃、ようやく周とまどかの結婚が決まった。戸籍上夫婦になれば、もう他の男が踏み込めない。弁護士の律が不倫だなんてするわけがなかった。  潜在意識から『してはいけないこと』に踏み込めない体になっている。  さっさと結婚さえしてくれれば、きっと諦められる。まどかのことは一時的な感情だと思えるようになる。そう自分に言い聞かせ、その中には是非そうなってくれという願望もあった。  結婚とほぼ同時にまどかの妊娠が発覚した。新婚生活もままならない中、妻から一気に母になろうとしているまどか。  なんとなく律は拍子抜けだった。こんなに簡単に子供ができるなんて思わなかった。よほど相性がよかったんだろう。そんなふうにすら思った。  まどかの体を気遣う周に腹部を擦るまどか。そこに子供がいると思ったら、まどかを性的な目で見ることに罪悪感を覚えた。
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