視線の先

2/24
前へ
/390ページ
次へ
 今回も得意のこのゲームで数え切れないほど見てきた勝利を得た。いつもなら簡単にその文字を目にする。まるで勝負にならず、勝手に相手が自滅する。それなら1人でプレイしていた方が余程面白い。そう思う律だったが、今回ばかりは嬉しそうに口角を上げた。  このゲームで1時間も続いたのは千愛希が初めてだな……。仕掛けなかったら、俺が負けてたかも。  いつでも冷静沈着な律が、珍しく熱くなった証拠だった。  律と千愛希は高校の同級生だった。お互い静岡県 静岡市に生まれ、県内で最も偏差値の高い高校へ入学した。  高校時代、2人は言葉を交わしたことはなかった。ただの一度も同じクラスにならなかったからだ。  それでもお互いに顔と名前は認識していた。常に全ての成績が学年1位の守屋(もりや)律と2位の土浦(つちうら)千愛希。  校内でも有名な2人だった。  律は弁護士の父親と元スーパーモデルの母親の間に生まれた。幼い頃から弁護士になるため、勉強をするのが当たり前の環境で育った。自室にはテレビがなく、課題を終えたらリビングでテレビを見たり、テレビゲームも許された。  勉強さえ怠らなければ、友達と遊びに行くのも自由だった。ただ律は、外で友達と遊ぶよりも家にこもってゲームをしている方が好きだった。勉強は嫌いではなかったし、むしろ新しい発見を得られるから、自ら進んで行った。
/390ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10248人が本棚に入れています
本棚に追加