初恋

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ーーヴヴ……  ズボンの後ろポケットでスマホが震えた。律は階段の昇り終わったところでそれを取り出し中身を確認する。 『今家に着いたよ。ごちそうさま! ご家族さんにもまどかさん達にもお礼を言っておいてね』  千愛希からのメッセージだった。律は先ほどまで一緒にテレビゲームをし、隣で夕食を食べていた千愛希の顔を思い出す。  ふっと頬を緩めて律は指を滑らせる。 『了解。明日仕事でしょ。早く寝なよ』  送信して自室に入り、そのままスマホをテーブルの上に置いた。それから不意に思い出す。何度となく感じた千愛希の視線。 「どうかした?」 「ん? ううん、なんでもない」  千愛希はなにも言わない。好きという言葉を強要することもなければ、忙しい律に「仕事と私とどっちが大事なの?」なんてバカみたいなことも言わない。けれど、肝心なことも言わなかった。  律には千愛希がなにを考えているのか未だによくわからなかった。ただ、時々とても悲しそうな顔をする。その原因がなんなのか律には見当もつかないことだった。  思えばあの苦しい恋愛感情から救いの手を差しのべてくれたのは千愛希だったと律はふと思う。  まどかのことを忘れようと必死だった頃、再会した千愛希。  律は千愛希のことなどすっかり忘れていた。だからデパートの一角で話しかけられた時には誰かと思って怪訝な顔をした。  2人の再会は突然だった。  仕事中、上司から貰った大事なボールペンをクライアントに盗まれた律。返せと交渉したが、知らぬ存ぜぬで話にならなかった。仕方なくボールペンを買いに行った先で話しかけてきたのが千愛希だった。
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