初恋

15/19
前へ
/390ページ
次へ
 ボールペンの種類もブランドもよくわからなかった律に、オススメのボールペンを奨めてくれた。自身も使っているというもの。ボールペン1つに5万もしたが、インクを交換すれば何度も使用できるし良いものを使うことで仕事へのモチベーションも上がる気がした。  迷わず購入した律。その際にようやく千愛希の名前を聞いて思い出した。  高校時代、模試ではいつも自分の横にあった名前。だから律は名前を聞くよりも字を見た方がしっくりきた。  今まで街中で偶然同級生に出会えば「守屋くん今なにしてるの!?」そんなふうに話しかけられ「ねぇねぇ、今度遊びに行こうよ!」なんて誘われる。  学生時代大して会話をしたこともないのに、たまたま会った同級生を誘う神経が律には理解できなかった。  けれど千愛希は違った。ボールペンを購入した律に手を振り「じゃあね!」とあっさり帰っていったのだ。  その日の夜、律は千愛希の言葉を思い出していた。 「弁護士さんじゃ、それなりにいいボールペンもってた方がいいよね」  さらりとそう言われて警戒した。弁護士をしているなんて言った覚えはなかったからだ。律がT大の法学部に進学したのは校内でも有名だったが、そこから弁護士になるとも限らない。検事だったかもしれないし、判事だったかもしれない。けれど千愛希は弁護士さんと言った。律が警戒するのも無理はなかった。 「ん? だって、バッジついたままだよ? 天秤のマークは弁護士さんでしょ? 守屋くん頭よかったから、全然驚かないけど」  千愛希はなんでもないように律の胸についているバッジを指差した。仕事帰りにスーツ姿のまま買いに出掛けたからバッジもつけたままだった。  一瞬の観察力に目を見張った。律にはそれがとても印象的だったのだ。
/390ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10260人が本棚に入れています
本棚に追加