初恋

16/19
前へ
/390ページ
次へ
 久しぶりに同級生に会っただけ。ただそれだけだった。千愛希のことは印象に残ったが、今後はもう会うことなどないしこれっきりだ。  そう思って律はすぐに千愛希のことを忘れた。  けれど偶然とはやはりある日突然やってくるものだ。  それから1週間ほど経ったある日、休日の律に話しかけてきたのは千愛希だった。街中に出てコーヒーでも飲もうとしていたところに捕まったのだ。  ボールペンを選んでくれた時にはスーツ姿だったが、この時は違った。フェニミンな装いでフレアスカートが似合っていた。雰囲気が違う、そう思った律はそっと眉を上げた。  一緒にお茶をしてもいいかと誘った千愛希に頷いた律。普段なら決して他人のそんな誘いには乗らないのに、この時ばかりはそれもまあいいかと思えた。  千愛希とは色んな話をした。仕事の話に婚約者に振られた話。ほとんど千愛希が一方的に喋っていた。他人の話を聞くのは面倒なはずなのに、なぜか千愛希の話には笑ってしまった。  不幸な話をしているはずなのにとても元気そうだったから。仕事の話をしている時の千愛希が輝くほどの笑顔を浮かべていたから。  婚約破棄は自らの選択でもあったんじゃないかと思えた。  その時にふと思い出した。千愛希とは高校が同じだったが、一度も同じクラスにならなかったから話したことなどなかった。そう、記憶の中ではそのはずだった。  けれど、再会してなんとなく印象に残ってたのは、高校生の時に言われた言葉も印象的だったからだ。
/390ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10260人が本棚に入れています
本棚に追加