異性の友情は存在する

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異性の友情は存在する

 千愛希はパソコン画面を見ながら、ぼーっと考え事をしていた。それでも千愛希の手は違う意思を持った生き物のようにカタカタと猛スピードで動く。  頭で考えなくとも打ち慣れた文章なら勝手に指が覚えていてくれた。 「土浦、ちょっといいか」  ふと大崎に呼ばれ、顔を上げた千愛希。どんなに考え事をしていようとも、この男の声には反応するようになっている。体にそう教え込んだのだ。  これが千愛希の仕事だから。 「なんでしょうか」  手を止めて大崎に近寄る。彼は、眉を下げ実に言いづらそうに「土浦、悪いんだが今度新しく制作するアプリが中々進まなくてそっちを手伝ってもらいたいんだ」と言った。  千愛希はなんだそんなことか。そう思って肩の力を抜いた。どんな仕事であれ与えられた以上はそれをこなす。アプリ制作は好きだし、実績がある分自信にも繋がった。千愛希自身も忙しい身ではあったが、睦月と別れたあの頃に比べればいくらか落ち着いた。  予てより徐々にそのアプリに携わる人間を増やし、睦月が望んでいたように管理だけに集中できる段取りを組んでいた。  千愛希がそこに前向きになったのは、なにも今さら睦月との結婚を考えたからじゃない。それは当然だ。  結婚の話はないにしろ、今は律と付き合っているのだから。今さら睦月のために彼が望むように行動したわけじゃない。  自分の仕事量を減らし、新たにアプリを制作しようと考えていたのだ。前回と同じように乙女ゲームを作ろう。だけど、従来と同じではそろそろ飽きられてしまう。最近ではチャット型の乙ゲーも出てるし新しいなにかを考えなきゃな。そう思っていたところだった。
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