異性の友情は存在する

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 まだ考えが形になったわけじゃない。これから取りかかろうとしていただけで、具体的なアイディアがあるわけでもない。今のこの時期なら他人の手伝いに回す時間もある。そう思い、千愛希は快諾した。  けれど大崎はなぜか視線を逸らした。ありがたいと思っている様子もなければ、それを当然だと思っている素振りもない。社長秘書としての兼任になるのだから忙しくなるであろうことは目に見えているが、なにもそんな顔をしなくてもとこっちが気を遣いたくなるほどに大崎は申し訳なさそうにしていたのだ。 「あの、社長……?」 「うん。あのな……悪いんだけど、手伝ってほしいのは……睦月なんだ」  そう言われたことで千愛希はごくりと息を飲んだ。久しぶりに睦月の名前を聞いた。以前は一緒にアプリ開発も制作も行っていたが、睦月との結婚が破談になった後、大崎が気を遣って睦月を別の仕事に移したのだ。  移したといっても睦月も共同経営者だ。大崎同様、自らもプレイヤーとして活躍しヒットしたアプリもいくつかもっている。  睦月が千愛希に協力していたのは、自らの意思であり、会社のためでもあった。それが、自分の仕事に集中するという名目で近くのビルに新たに事務所を構えたのだ。  経営元は同じ。千愛希とはジャンルの異なるアプリを制作している睦月が、自分の認めた後輩たちを連れてそちらの事務所にこもったのだ。  簡単に言えば、大規模な部署移動。事務所まで変えてしまったのだから、独立に見えてもおかしくはないが、睦月の言い分はあくまでも「集中できる空間がほしいだけ」だった。  千愛希との関係など社員全員が知っていたことだ。式の準備のことだって誰が出席できるか確認までしていたのだから。  それが破談となり居心地が悪くなったのは千愛希だけではない。もちろん睦月の方も今まで通り千愛希のサポートに回ることなどできそうになかった。
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