視線の先

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 俗にいう友達とは、幼い頃より学力の差もあって会話をするにも思考が合わないことが多く、相手に合わせなければならないことにほとほと疲れてしまっていた。  だからすっかり他人への興味は薄れていったし、自分のことだけ考えて生きる方が楽だった。  その一方で、母親の影響もあり他人に関心はなくとも、思いやりが欠如することはなかった。母親はロシアと日本のハーフであり、天真爛漫という言葉がよく似合う明るい性格である。  いつも笑顔で「お友達には優しくしなきゃダメよ」と言われて育った律は、相手がどれだけ自分よりも学力が低くとも見下すこともなかった。  だから当然、常に学年2位の千愛希にも全く持って関心がなかった。  有名な進学校だったために、模試があれば廊下に大きく上位50名だけが貼り出された。常に隣にある名前。2位と3位は大きく点数差が開いているにも関わらず、いつも千愛希は今一歩のところで律を超えられずにいた。  1点差まで追い上げた時には、さすがの律も目を丸くさせた。  それでも律は、その1位を譲る気はなかったし、千愛希とそれ以上の関係を持つ気もなかった。  お互いに顔と名前は知っている。ただそれだけの間柄だった。
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