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千愛希には生まれてこの方、異性の友人はいなかった。その美しい容姿から、男性は皆千愛希のことを恋愛対象として見ていた。
学生時代も社会人になってからも。ただ、同じ部署の男性社員は千愛希の技術と潜在能力を恐れ、脅威に思われることはあってもチヤホヤしてくれる者はいなかった。
女性職員も、その華やかな見た目に嫉妬し千愛希が男性社員から注目されないよう必死だった。
優しくしてくれた大崎はあくまでも仕事仲間だったし、その後親身になってくれた睦月は彼氏になった。
だからお茶飲み友達として何度も一緒に出掛けてくれる律の存在がとても大切に思えた。
「守屋くんももう結婚するの?」
「俺? いや……まだ」
「ちゃんと考えてあげなよ? 守屋くんモテるだろし、ちゃんと思ってること伝えてあげないと彼女不安になるよ?」
「いや、そういう相手もいないから……」
そんな会話をした時、ほっとした。彼女がいなきゃまた会えるかもしれない。そう思った。こんなにもモテるはずの律がまだ結婚どころか彼女もいないなんて信じられなかった。
せっかく友達になれたのだから、もっとこの関係を維持したいと思っていた。
10回以上会う頃には、お互いの呼び方も名前に変わっていた。
「ねぇねぇ、もう土浦さんって呼び方やめない? 仕事してるみたいな気分になるんだけど。千愛希でいいよ。私も律って呼ぶし」
そう切り出したのは千愛希の方だった。
甘いものが苦手でブラックコーヒーが好きなこと。好みがそっくりで千愛希は嬉しかった。
男性は皆、女の子は甘いものが好きだと思い込んでいる。可愛い甘いお菓子を美味しそうに食べる姿を可愛いと言う。
けれど千愛希は甘いものは受け付けないし、白米にどんと肉や野菜を乗せた丼ものやいわゆる男飯といわれるものが大好物だった。
全く可愛いげのないそんな千愛希に律は「楽でいいよ。バレンタインのチョコレートを押し付けられる心配もないし、人気のスイーツ店に一緒に並ばなくていい」そう言って優しく笑った。
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