異性の友情は存在する

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 千愛希は律の考え方が好きだった。最初は千愛希のことを下の名前で呼ぶことに戸惑っていた律だったが、千愛希が「私がいいって言ってるんだけど」と言えば「まあ、あなたがそう言うなら」と本人の意思を尊重した。  婚約破棄にについてもそうだった。 「結局私は結婚が決まっていながら仕事に夢中になっちゃったから悪かったんだよね。相手の気持ちを考えてあげられなかった」  その頃にはもう睦月は事務所を移る準備をしていた。自分が追いやった気にもなってあとから自分を責めたりもした。けれど、それを引き留めるには彼との結婚を優先させなければならなかったし、千愛希にはその選択はできなかった。 「別に結婚なんて本人達がしたければ仕事をしていようができることだと思うけど。彼が現在仕事をしながら1人で生活できているなら、土浦さんが同じように働いてたって困らないはずじゃない? 子供ができたら仕事は減らすって言ってあった訳だし、実際身重で今と同じだけの仕事量なんて無理だと思うしね。  それを結婚するなら仕事量を減らすなんて、男のエゴじゃない? 男女平等になりつつある今の世の中に適した考え方じゃないと思うよ」 「そうだね……。私もそう思ったよ。でも彼は早く子供がほしかったんだろうな」 「土浦さんは?」 「え? 私? 私は……子供はほしいけど今じゃなくてもいいと思ってるの。世の中の皆は結婚して子供を産むのが当たり前だって思ってるけど……子供がほしくても授からなくて悩んでいる人もたくさんいるってわかってるけど……私は自然にできるまではそれでいいって思ってるし、もしできなゃできないで不妊治療までして頑張らなくてもいいんじゃないかって思ってる。  正直結婚は相手を選ばなきゃいつでもできるけど、仕事のチャンスは今しかないって思ったし」 「それ、ちゃんと相手に言った?」 「んー……どうだったかな。私にはまだまだ子供なんて先の話だと思ってたから……」 「そもそもその考え方が合わなかったんじゃないの? 俺は、結婚も出産もしたくないならしなくてもいいと思う。それは個人の自由だし、人権だし」 「……うん」  千愛希は初めて言われた言葉に瞳を揺らした。
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