異性の友情は存在する

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 周とまどかが新居に移ってからは、更に律の心情も変わっていった。毎日当たり前になりつつあったまどかの声も笑顔も家から姿を消した。  周がいて騒がしかったリビングも、仕事が遅い父と、早く就寝する祖母と母のせいかしんと静まり返った。  まるで風化してしまったかのような空間を撫でるようにして、そっとリビングのソファーに触れた。  ここに座っていればまどかがコーヒーを入れてくれた。 「休みの日も仕事なの?」  そう言って隣に座ったりもした。けれど、今はそれもない。代わりに千愛希と会う時間が増えた気がした。  せっかくの休みは1人で過ごしたかったはずなのに、どうにも1人でいるとまどかのことを思い出す。かといって男友達と出かける気にもなれず、結局は千愛希と一緒にいるのが楽だと思った。  時にはくだらない話をして、時には政治・経済について熱く語る。知能指数が同じレベルの千愛希は、律の友人の中でも特に話していて気が楽だった。  言葉を要約する必要もないし、思ったことをそのまま口にしてもあくまで律の考えとして千愛希は受け止めてくれた。  千愛希もまた、今まで出会ったことのない種類の異性だった。まどかとは少し違う、一緒にいて安心できる相手。まどかのように胸が苦しくなったり、鼓動が速くなったりすることはないが、素をさらけ出せるような、落ち着く空間をくれる不思議な相手。  女性として、異性としてどうこうという感情はないが、千愛希といることで自分自身が変われる気がした。同時にまどかへの気持ちも切り替えられる気がした。  律は決して千愛希をまどかの代わりだと思ったわけではない。千愛希を利用してまどかのことを忘れようとしたわけじゃない。  本能的に、千愛希の側にいることを求めた。
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