視線の先

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 千愛希の方は、複雑な家系で育った。複雑と言っても家族仲は良好である。現在の父親は母の再婚相手だ。実の父親とはもう何年も会っていない。  前父と母との間に千愛希の他に姉と弟がいる。現父と前妻の間には千愛希の2つ上の長男と2つ下の次男、3つ下の長女がいた。  お互い、3人の連れ子同士の再婚だった。千愛希の母も、現父も配偶者の不倫が原因で離婚に至ったため、傷を舐め合うかのように惹かれた2人は、千愛希が思わず手で顔を覆ってしまいたくなるほど蜜月だった。  そんな夫婦の間に更に4人の子供をもうけ、10人兄弟の中で千愛希は大人になった。1番下の子は千愛希と19個も年が離れている。いくら1番上が10代の時の子だとはいえ、お盛ん過ぎやしないか、と40歳を何年か前に迎えた母親を見て目を細めたものだ。  現父の実家に住むことになったのだが、祖父母も千愛希達を歓迎し、本当の孫のように接してくれた。  そんな14人の大家族。父の実家は農家の地主であり、大家族でも貧困に悩まされることはなかった。  父は千愛希や姉、弟のことも平等に愛情を注いでくれる人だった。まだ小学校低学年の時、皆で使いなさいとデスクトップのパソコンをプレゼントしてくれた。  当時はまだかなり高価なものではあったが、仲良く使うことで血縁関係のない兄弟仲がより親密になれるのではないかとの父親なりの配慮だった。  しかし幼い子供達には、その価値は理解し難い。物珍しさから我先にと触りたがり、あっという間に故障させてしまったのだ。
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