異性の友情は存在する

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 律はぼんやりと千愛希のことを考えていた。婚約破棄になり、今は仕事に夢中になっている千愛希。  お互いに30歳を過ぎた。自分は結婚も出産もしたくないならしなくてもいいだなんて言ったが、千愛希はどうだろうか。  1年、2年経ったら気持ちが変わるかもしれない。高齢出産が近付いてきたらやっぱり子供がほしいと思うかもしれない。  相手の婚約者はどうなったんだろう。他の女性と結婚したのか、あるいはまだ独身なのか……。  まだ出会ったばかりの頃、相手は職場の上司だったと聞いたことがある。未だに一緒に働いていたとしたら、律以上に顔を合わせていることになる。  まだ相手が千愛希に未練があったとしたら……今の千愛希の気が変わったら、元の鞘に収まることもあるかもしれない。  そうなったらこんなふうに一緒にコーヒーを飲みに出かけることもなくなるのか。時々そう考えるのだった。  婚約者は千愛希のなにが気に入らなかったんだろう。結婚するなら仕事量を減らせだなんて……結婚してからだってそれは可能なはずだ。  そこまで千愛希と結婚したかった男が仕事量を減らさないくらいで婚約破棄なんかするだろうか。  もしや、他にも同時に付き合っている女性がいたとか。いや、それなら今頃そちらと結婚していて千愛希も不平不満を言うはずだ。  それがないとすれば……千愛希を試したのか? 相手にとっては駆け引きのつもりだったのかもしれない。  婚約破棄を突き付ければ、千愛希がすがってくるとでも……。 「ははっ……」  律は、誰もいない空間で思わず笑いを溢した。  そんなわけがない。あの千愛希がたかだか1人の男のために考えを変えるはずがない。そう思うとおかしくてたまらなかった。
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