異性の友情は存在する

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 千愛希に対して駆け引きなんてバカげている。あんなにも真っ直ぐな人間に試すようなことをしたところでそれが本心だと取られて終わりだ。  大方、駆け引きに失敗し引くに引けず、そのまま婚約破棄に至ったのだろうと律は思った。  さて、千愛希はどこまで理解しているだろうか。間際になって婚約破棄されたとピーピー喚いていたが、千愛希が泣いてすがったのなら、問題はとても単純だったかもしれない。しかし、それができないのが千愛希だ。  素直な努力家だが、時に頑固で自分の意思を曲げない。どんな男だって千愛希には手を焼くはずだ。 「……好きだなぁ」  律はポツリと呟いてクスクスと笑った。誰の手にも負えない自由な千愛希の人間性が好きだった。 「結婚も出産もしたくなかったのになんで婚約したの?」  素朴な疑問をぶつけたことがあった。 「興味はあったのよ。皆がしていることを一度くらい経験してみたかったの。経験せずにしたくないのは食わず嫌いと同じでしょ?」 「同じかな……」 「同じよ。彼のことは好きだったの。恋い焦がれるほどキュンキュンするような、そんな類いのものじゃなかったけどね、パートナーとしては最良の相手だと思ったの。  結婚って恋愛の先にあるものだと思ってたけど、恋人から家族になるわけでしょ? だったら恋愛感情云々よりも、生涯のパートナーとして一緒にいて成長しあえるようなそんな関係もありなんじゃないかって思って」  律は、千愛希の言葉に深く頷いた。律自身も結婚は恋愛感情の延長線上にあるものだと思っていたからだ。  周とまどかのように、お互いに強く惹かれ合って結ばれるものだと思った。しかし、子供が産まれ、父と母になれば嫌でも家族になっていく。お互いに老人になったらそれこそ恋愛感情云々ではない。  千愛希が見据えているのはもっともっと先の未来なのだと思えた。
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