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千愛希の話す内容は、婚約者に対して恋愛感情がなかったことを示唆していた。それも律にとっては興味深かった。
恋愛感情がなくとも千愛希は結婚を意識したりもするのか。それなら、当然恋人となることも可能なはず。
元婚約者と自分とはなにが違うのだろうかと律は首を捻った。今後も自分と同じように仲の良い男友達ができて、相手から交際を迫られたら付き合うのだろうか。
相手の男が他の男とは会うなと言ったら、自分との関係もそのまま終わりを告げるのだろうか。
ふわふわとそんなことを考える。
なんとなく、それは嫌だと思った。こんなにも居心地のいい相手はそうはいない。異性でありながら、知的好奇心を刺激してくれる相手にはきっともう巡り会えない。
まどかとは違う、別の魅力を持つ女性。
「ねぇ、千愛希」
「ん?」
「俺、千愛希のことは人間として好きだよ」
ついそう発言した時、千愛希は大きく笑った。美しい笑顔で白い歯を見せて。その笑顔は少しもまどかとは似ていなかった。
「私も律のこと好きだよ。律はね、私のこと否定しないから好き。考え方も好きだし、甘いものが嫌いなところも好き。あと、意外に友達思いなところも好き」
無垢な笑顔でそう言われると、少しだけきゅっと心臓が小さく音を立てた。千愛希の好きは決して恋愛感情ではないけれど、本物の『好き』だった。
容姿や経済力に寄ってきて、勝手に理想を押し付けた一時の恋愛感情とは違う。律のいいところも悪いところも知っていて、それでいて好きだと言ってくれる。
「その……人として好きだから、一緒にいることにした」
「うん? うん、一緒にいよう。律となら楽しいよ。こうやってお茶してさ、周くんやまどかさんも一緒に」
「そうじゃなくて」
「んー?」
「付き合おうかって言ってる」
生まれて初めての告白は、上手くできなかった。これまでにないくらい顔を真っ赤にさせた律。そんな表情を千愛希が見たのも初めてだった。
「はぇ!?」
だから千愛希は、喉の奥から変な声を出して驚いた。
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