異性の友情は存在する

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 お互いに『恋人』という肩書きをもっていても肉体関係に発展しないことについて疑問を抱いてはいなかった。  そもそも恋愛感情もないのに交際することになった時点で一般的な恋人同士とは違うのだ。それに、2人は男女の関係に至ることを焦ってなどいない。単純に2人でいる空間が心地よく、体の関係よりも心の繋がりを求めただけだった。  律も千愛希もお互いを気遣い、気持ちを汲み取ることに長けていた。だから大体のことは言葉にしなくても相手がなにを考えているか、なにを思っているかがわかった。  昔はそんな特技ともとれる『他人の顔色を伺う』ことが面倒だった。嫌でも他人の好意に気付き、嫉妬に気付き、嫌悪を感じる。相手の感情が面白いくらいに伝わってきては、それに振り回されてどっと疲れる。  マイナスにしか働かなかったはずのその特技は、お互いを知るにつれて、楽なものへと変わっていく。 「忙しい」  その一言で連絡を控えようと思う。 「行きたい喫茶店がある」  その一言でスケジュールを調整し、仕事は順調なのだと頬を緩める。  多くを語らずとも理解し合える関係は、体を重ねる必要もなかった。それでも時にあえて多くの言葉を使って長話をすることも2人の楽しみでもあった。  普通とは違う恋人。普通を求めることも、普通に縛られることも必要ない。お互いにそう思えていた。  しかし、半年経った頃から少しずつ律の違和感に気付いた千愛希。その綻びに気付いたのだって、半年もかかったのだって千愛希の感情に変化が起こり始めたからだった。
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