見据える未来、払拭できない過去

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「土浦、わざわざ悪かったな」  右側から声が聞こえ、視線を移せば睦月の姿があった。実に1年振りだがその容姿は変わらない。ただ、配信予定日が迫り徹夜でもしているのか表情が疲弊しているように見えた。  普段から綺麗にセットしている短髪は、ハードタイプの整髪剤によりそのままの形を維持してはいるが 、髪に油分を含んでいる。また、数ミリ伸びた髭からも帰宅できずシャワーを浴びる暇もないのだろうと思わせた。  奥二重の目は、目付きが悪そうに見えるが持ち前の明るさと笑顔から睦月を怖がる人間もそういなかった。  睦月は千愛希の応援などいらないと一度は突っぱねたが、千愛希が見た通りほとんど睡眠もとらずに働きずくめだったため、今となってはありがたさしかなかった。 「おはようございます。今日からよろしくお願いします」  千愛希は形上頭を下げたが、気まずいったらない。しかし社長命令とあっては仕方がない。私は仕事をしにきただけだ。と割りきることにした。 「ああ、こちらこそ頼む。早速いいか?」  皆に紹介している暇はない。紹介といってもほとんどの社員が千愛希を知らないはずがないのだ。睦月に案内されるがまま、デスクをあてがわれる。  デスクトップのパソコンの前に座った。 「これが仕様書だ。残りはそのパソコンのフォルダに入ってる。テスト用のスマホはこれを使ってくれ」  そう言って渡されたもの。千愛希はそれを受け取り早速目を通す。じっと目で文字を見つめる千愛希の姿を他社員達は怪訝そうに見つめていた。
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