見据える未来、払拭できない過去

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 いつまで経ってもずっと仕様書を見つめている千愛希に、さっさと取りかかればいいものを。こうしている時間も惜しいのにともどかしさが募る。  しかし、千愛希の仕事のやり方を理解している睦月は「頼むな」とだけ言ってその場を離れた。  千愛希のデスクは、上座にある睦月のデスクの前だった。ただ、睦月のデスクから5メートルは離れている。  左側に睦月の視線を感じながら、右と正面からは睦月の部下達の品定めをするかのような視線。  あちらこちらから降り注ぐ視線は煩わしいが、千愛希はすぐに集中する。  勢いよく仕様書を捲り、それらを全て暗記していく。頭に入ったところで、「曽根さん、私のゲームエンジンを使ってもいいですか?」と尋ねた。 「ああ。かまわない」  すぐに聞こえた言葉に頷く千愛希。他社員達は私のゲームエンジン? と首を傾げた。ゲームを制作するにあたり、1からプログラミングをするとなると膨大な時間がかかり、効率が悪い。そこで、主要部分を簡単に制作できるソフトウェアにゲームエンジンというものがある。  既に他社で優れたゲームエンジンが制作されており、ライセンス販売されているものがある。他にも契約により使用できるものや、無料だが販売後にロイヤルティーとして数パーセントを支払う後払い式もある。  自社でも他社のゲームエンジンを使用しており、それ通りの仕様書が千愛希の手元にあった。
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