見据える未来、払拭できない過去

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 しかし千愛希は、ゲームエンジンでさえも自ら制作していた。更に特許をとっており千愛希以外は誰も使用できない。とはいえ、プログラミングが複雑で、他社のゲームエンジンに比べて扱いづらい。  あくまでも千愛希にとって都合がいいだけで、そのゲームエンジンを使いたがる者は中々現れなかった。  千愛希がアプリ制作を行っていた時には睦月も関与していたため、その存在を知っていたが、アプリの配信が開始された後に入社してきた社員達には知らぬところだった。 「では、とりかかります」  千愛希は、カッと目を見開くとパソコン画面に集中する。これでもう視線も音も全く気にならなくなった。  他社のゲームエンジンを使用する方法で組まれた仕様書を、脳内で自ら制作したゲームエンジン用に変換しながら制作していく。  主になるのはパズルゲーム。パズルをクリアし、レベルアップすることで物語が進める仕組みになっている。  現在でも流行りのタイプのゲームだ。  内容は把握できていなくてもいい。睦月が企画し、制作した仕様書であれば間違いない。制作のノウハウを千愛希に叩き込んだのは他でもない睦月だ。千愛希は、睦月の仕事への緻密さと技術は信用していた。  千愛希の両手は、凄まじい速さでキーボードを叩き始めた。頭の中で描かれているプログラムが、全てパソコンの中で形になる。  他社員達は、その奇妙な光景に度肝を抜かれた。一度仕様書に目を通したきり見直すこともせずひたすらキーボードに指を這わす。まるで、指が自らの意思を持っているかのようにも見えた。  千愛希は、なにかに憑依されたかのようにそこから数時間全く減速もせず、一度も手を止めることなく作業を続けた。
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