見据える未来、払拭できない過去

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 他社員達は千愛希の様子が気になって仕方がなかった。ただでさえもう何日もほとんど睡眠を取らずに仕事をさせられているのだ。集中力などとっくに切れている。  そこへきて場違い極まりない集中力は、留まるところを知らない。まるで呼吸をするかのように、その速度が当然だとばかりに自然に仕事をこなす千愛希。  3時間半が経過する頃、最後のEnterキーを押した千愛希が大きく伸びをした。 「とりあえず4章は終わりました。読み込み次第、テストに入ります」  自分のデスクからそう睦月に声をかけた瞬間、辺りはざわっと騒々しくなる。  このゲームのストーリーは現在配信予定のところまでで5章まである。3人で1章を分担し、作業しているところだが、1章を終えるのに数週間~数ヶ月はかかったはずだ。  それをたったの3時間半で仕上げるなど絶対に不可能だと社員達は言いたいのだ。 「ちょっと、待って下さいよ。ちゃんと仕様書読みましたか? 1章ごとのボリュームはかなりあるはずですよ。こんな短時間で行うなんて不可能です。ちゃんと丁寧に行ってもらえませんか」  右隣から不満の声が聞こえた。ずっと睦月にくっついて仕事をしてきた男だ。千愛希も何度か言葉を交わしたことのある鍋田は、千愛希より1つ年下のプログラマー歴10年目のベテランだ。  千愛希よりもよほど睦月との付き合いは長い。その男が顔をしかめるのは当然だった。  しかし、丁寧に行えなどと言われれば千愛希も気が悪い。スピードは速いが、打ち間違えも配置ミスもないように確認を怠ってなどいないからだ。  誰よりも丁寧に仕事をこなしている自信があった。
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