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千愛希はそれでも冷静に表情を変えなかった。ここでは嫌われ者の身。文句を言われることは最初から想定していた。
「不可能とは誰が決めたんですか?」
「……は?」
「1章が膨大な量で、私が行った作業で足りないと言うのなら、そもそも1章分のデータがパソコン内に入っていません。私は、4章分の仕様書をフォルダ内に入っている分のみしか行っていませんので」
千愛希がそう言うと、睦月が席を立った。
「そのパソコン内にはちゃんと情報が全て入っている。俺が昨日確認してるからな。土浦、ありがとうな」
千愛希の横に並び、パソコン画面を覗き込んだ睦月。それからちらっと鍋田に視線を移し、「鍋田、言いたいことはわかるが土浦が使っているゲームエンジンならこのスピードでも可能なんだ」と言った。
社員達の目は点になる。
「ふ、副社長……そのゲームエンジンなら可能ってどういうことですか? もちろん土浦さんが以前アプリ制作をした時のデータをもとにゲームエンジンも作ったことは俺も知っています。
ですけど、こんな短時間で簡単にアプリ制作ができるなら、俺達だってそのゲームエンジンを使わせてもらえたらよかったんじゃないんですか。土浦さんは、この会社のためにそのソフトを作ったんですよね?」
鍋田は千愛希が特許をとっていることも知っている。だからこそ、そんなに有能なソフトを1人占めし、自分だけが楽をしているように見えたのだ。
「使ってもらってかまわないですよ。それで仕事が捗るのなら」
「土浦、あんまり意地悪を言わないでやってくれ……」
千愛希の冷たい物言いに、睦月は苦笑した。
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