見据える未来、払拭できない過去

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 睦月は困ったな、とこめかみを指先で掻きながら「確かにこのゲームエンジンなら可能なんだ。過去に使用したプログラムも使用頻度の高いツールをAIが勝手に分析し、次の展開を予測して組み立てまで行ってくれる。  千愛希自身のスピードもあるけど、なんせ性能が高い。だけど、それだけの能力を含んだソフトだからこそ、暗号化もプログラミングも複雑でそれを覚えるだけで数ヶ月はかかる」と言った。  睦月の言葉に、社員全員が息を飲んだ。 「土浦は確かに特許をとってはいるが、社内では使用フリーとしている。だけどな、使いこなせるヤツがいないんだ。  俺だって、このソフトを使いこなせたら半分以下の期間で制作できる。でも数ヶ月あったら、プログラミングを覚える間に今あるソフトでかなり進む。制作そっちのけでソフトの使用方法を覚えている時間は俺達にはない」 「そんな……副社長でも使用できないソフトなんてそんなの……」 「あるんだよ。お前達は勘違いしてるよ。アプリ制作を土浦に教えたのは俺だけど、元々のプログラミング技術においては俺よりも土浦の方が上だ」  肩をすくめた睦月に、更に辺りは騒がしくなった。千愛希はまたそんなことを言う、と半ば呆れながら「かいかぶり過ぎです」と言った。  睦月は千愛希と出会った頃から、その能力に気付いていた。アプリ制作は独学程度の知識しかなくても、ハッキングの技術は優れたものだった。  国で認められたホワイトハッカーとしてなら、こぞって欲しがる者がいるほどの人材だろうと思えた。開発者に身を置いたことがもったいなく思えるほどに。
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