見据える未来、払拭できない過去

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「社長が土浦を送り込んできたってことはそういうことだ。俺よりも劣る人間なら助っ人にならないだろ」  思わず笑ってしまった睦月だが、部下達は決して笑えなかった。 「そもそもどうして間に合わないんですか?」  千愛希は素朴な疑問を睦月にぶつけた。社員達は、『やってもやっても終わんねぇからだよ!』と目で訴えたが睦月は違った。  千愛希も不思議でならなかった。用意周到で技術も計画性も申し分ない睦月が、配信予定までに完成させられないことなどありえないと思っていたのだ。 「全ての作業が遅いんだ。パソコンが重いのもあるが、それでもかなり修復させた。でも読み込みもアップデートも時間がかかる。思っていたよりも仕事が滞って進まない。ウイルスも疑ったが、それらしいものはなかったしな」  千愛希はふむ、と考えた。睦月であればバージョンアップもアップデートも抜かりなく行っているはずだし、起動や作業に時間がかかる原因も排除できるはずだった。  正規のソフトウェアを使っている以上、ウイルスに感染するリスクも高くはない。だったら、一体なぜかと頭を捻る千愛希。  パソコン画面に目を移せば、やはりデータ保存にもアプリ起動にも時間がかかる。加えて、プログラミングに誤りがあるという通知まで届いた。  千愛希は顔をしかめた。プログラミングに誤りなどあるはずがない。自ら作ったゲームエンジンであり、プログラミングは画面を見なくたって使いこなせるほどに使い込んできた。環境が変わったとはいえ、千愛希がミスなどするはずがなかった。
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