見据える未来、払拭できない過去

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 睦月も部下達も配信までとにかく作業を続け、予定通り配信をしようということになった。しかし、いつ新たな情報漏洩が起こるかわからず、皆気が気じゃない。  加えて作業の進みもパソコンのデータ処理も遅くにっちもさっちもいかなくなっていたのだ。  千愛希は、先ほど同様のスピードでキーボードを叩いた。得意のハッキングで事務所内、全てのパソコンを覗いた。  社員達には千愛希がなにをしているのか全くわからなった。ただ黙々と作業している千愛希を見つめることしかできない。 「あー、やっぱりウイルスですね」  千愛希はそう言った。 「ウイルス? そんなバカな……俺はちゃんと調べ……」 「No.19のパソコンがウイルス感染を起こしています」  そう千愛希が言ったところで、ざっと視線は1人に集中した。入社5年目の田所だ。彼は、目にかかるほどの前髪を揺らし明らかに動揺した素振りを見せた。 「この9月16日 14時37分ですね。違法の漫画サイト見てました?」 「……え?」 「誤ってアダルトサイトに飛びましたね? そこで感染してます」 「まっ……」  入社5年目とはいえ、睦月が目をつけた社員でもある。ウィルス感染でもしていたら直ぐに対処してもよさそうだが、なぜ……と田所に集中した視線は動かない。 「通常のウィルス感染なら対処できたでしょうが、ハッキングされていますね。情報漏洩はそこからでしょう。おそらくアプリの内容も仕様書も向こうに筒抜けかと……」  千愛希は肘をデスクにつけて指先で顎を触る。それからむぅ……と考え込み、「データを取られていたら悲惨ですよ。こちらの配信前に向こうが配信を開始し、こちらが盗作だなんて訴えられる可能性もあります。まあ、ハッキングの証拠が残っている以上、法的には勝てるでしょうが、仕事中に違法漫画を読んでいたことが記事にでもなればどちらにせよこの会社は終わりですね」と淡々と言ってのけた。  その物言いは、少し律に似ていた。
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