見据える未来、払拭できない過去

11/55
前へ
/390ページ
次へ
 睦月を初め、社員全員が真っ青な顔をした。 「とりあえず、ハッキングしたパソコンにウイルスを送りつけておきます。向こうが開いた途端、パソコンが使用できなくなります」  千愛希は平然とそう言って、胸ポケットからUSBを取り出すと、そのパソコンに差し込み作業を続けた。 「お、おい……いくらなんでもウイルスを送りつけるなんて犯罪だぞ……」 「先に犯罪を起こしたのはあちらです。全てのデータを他のパソコンに写すにはかなりの労力がかかるでしょうからおそらくほとんどのデータがこの中に残されたままだと思います。データ共有まで行っていたらアウトですが……。どちらにせよ、今後このアプリの配信はできませんね」 「できないって……それじゃ、俺達はなんのために……」 「知りませんよ。そもそも社用パソコンでしかも勤務時間中に違法ダウンロードをしたこともいかがなものかと思いますし、それに気付かない曽根さんも曽根さんです」  千愛希の言葉に睦月は頭を抱え、他社員は仮にも上司で元婚約者になんて冷たい言い草だと千愛希を睨み付けた。 「そんな言い方あんまりじゃないですか? 俺達はこれまで寝ずに作業をしてきたんですよ? 今日きたばかりの人に」 「は? あなた方は仮にもパソコンを専門に扱うプロフェッショナルでしょう? この中にどれ程膨大な情報量と商業技術が入っているかわからないわけでもないでしょうに。スマホが主流となった今、アプリゲームは競争率の激しい業界ですし、年々クオリティも上がってきています。管理を怠れば足元を救われます。その自覚が足りなかった結果じゃないですか?」  正論ではあるが、あまりにも冷淡な言葉に社員達はぐっと拳を握りしめ、田所に至っては絶望に満ちた顔をしていた。
/390ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10277人が本棚に入れています
本棚に追加