見据える未来、払拭できない過去

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「たかだか社長の愛人に怠慢と趣味を暴かれているんだから、その技術というやつもたかが知れてますね。ここは、無能の掃き溜めか」  見下したような千愛希の態度に全員が怒りに震えた。ここまで努力してきたのは本当だ。ほんの些細な時間で息抜きをしただけ。それなのになぜ無能呼ばわりされなければならないのか。  掴みかかりそうな勢いの表情を向ける社員達。鍋田はやってられない、と言ったふうに舌打ちをした。 「無能で悪かったですね。俺も社長の愛人が自分よりも稼いでるなんてやってらんないですよ。あー、もう辞めますわ」  だるーと言いながらネクタイを緩めた。他社員達も同調するように伸びをしたり、姿勢を崩したりする。  睦月は社員達の態度に目を見張る。今辞められたらこのアプリはどうなるんだ。なぜ煽るようなことを言うんだと睦月は今度こそ千愛希を叱咤しようと口を開く。  しかし、千愛希の方が早く「でしたらどうぞ。他の方も辞めていただいてかまいませんよ。その代わり、違約金の1人1000万円、しっかり支払ってから辞めて下さいね」と言った。  い、1000万……? と全員の目が点になる。 「そりゃそうですよね。今回のアプリ制作を行うにあたってゲームエンジンも他社のものを使用してるんですよ。その契約金がいくらかわかっていますか?   今後このことが世間に知られることになり、会社自体が傾けばどれだけの損害が出ると思っていますか? あなた方は辞めればいいだけですから気が楽ですよね。他のIT企業に就職して、ここの技術でも売れば鼻高々でしょう。ですが、その損失を全て被るのは社長と副社長達だということをお忘れなく。  どうせ恩も義理もない上司だ、倒産しようが知ったことじゃない。そう思うのであればどうぞ、弁護士でも立ててうちと争いなさい。ただし……私を敵に回すなら違約金だけではなく今後IT業界にはいられないよう完膚なきまでに叩きのめします」  千愛希は唸るようにそう言った。その鬼気迫る物言いに社員達はぶるぶると震え上がった。
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