見据える未来、払拭できない過去

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「これは脅しではなく警告です。私は社長秘書ですからこの会社と社長を守る義務があります。易々とハッキングさせたことも、配信が遅れそうなことにも私はとても怒っているのですよ。経営危機に陥るようなら、私はあなた方を絶対に許しません」  千愛希は大きく目を見開き、白目を剥き出しにさせると、デスクをバンッと強く叩いた。その大きな音に、社員達もびくーーーぅっ! と飛び上がる。 「わかったら女子高生のようにくだらない噂できゃっきゃしてないで仕事をしなさい! 無能だと見下されるのが嫌なら技術を身に付けなさい! ゲームエンジンの契約金を支払うのがバカバカしいと思うのなら、私のゲームエンジンを無料で使っていただいてもかまわないんですよ?  それができれば配信予定だって半分の期間でできたんです……とりあえず、あなた方は私より無能だってことだけ認めてもらっていいですか?」  千愛希が根も葉もない噂に対しても、経営崩壊の危機に陥っていることに対しても、全ての原因がこの事務所内の社員にあることに対しても腸が煮えくり返るほど怒り心頭していることは誰が見ても明白だった。  ようやく社員達は身を縮めて顔を伏せた。 「まぁ……今更そんなことを言ったところで事が終息するわけではありません。とりあえず、全てのパソコンを初期化してウイルスも排除します。大幅なシナリオ変更とパズルの仕組みを1から考え直しましょう」 「1からって……そんなこと……」 「今あるものを修復したところで間に合いませんし、配信予定よりも先にあちらに配信されたら更にそこから新たに企画を練り直すつもりですか? そんなことになったら一体いつ配信できるんですか。今から新たに制作し直した方が早い」  絶句した様子の睦月にそう淡々と答える千愛希。それからまた社員達に視線を戻し、「今日のところは全員お帰りください」と言った。
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