見据える未来、払拭できない過去

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 ……は? と間抜けな声が響く。帰るなどという選択は全員の中になかった。違約金など、再就職はできないなどと言われ、誰もが配信予定日まで一睡もさせずに働かされるのではないかと思っていた。 「ただでさえ男性ばかりでむさ苦しいのに、空気も淀んでこれじゃ仕事も捗りません。寝ずに仕事をするのもけっこうですが、集中力の欠けた頭ではミスも目立ちます。本日を含めて3日間、全員に有給を与えます。社長には私から許可をとっておきます」  長い足をすっと組んだ千愛希。スカートの下からすらっと伸びたストッキングに包まれた白く美しい足に数人の男達は視線を移した。 「身なりを整え、十分な睡眠と食事を摂ってから4日後に出勤してきて下さい。それまでに企画を考え、プログラムを整えておきます」 「ちょっ……いくらあなたでも3日でなんて……」  木田という男が言った。流されやすいタイプの男で、仕事を押し付けられる傾向にある。千愛希の陰口にも聞き手として頷いている内に、いつの間にか仲間に加わっていた。  デザイナーとしては優秀だが、自分の意見を通すのは苦手な男。しかし、プランナーとしても何度か仕事をしてきた木田にとって、千愛希の提案はあまりにも無謀に見えた。 「ここに派遣された以上、最悪な状況を覆すのが私の仕事です。私は、私の仕事をします。ですから、あなた方は自分達の仕事に責任と誇りを持って下さい。言っときますけど、仕事に情熱を持てない人間を私は社員として認めません」  なっ……。ぽかーん、と社員達の口がだらしなく開く。 「クリエイターとして少しでもプライドがあるのなら、食らいついてきなさい。そしたら私が、このアプリを今年度で1番ダウンロード数の多い人気新作アプリにしてあげる」  そう言って千愛希は口角を上げた。
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