見据える未来、払拭できない過去

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 社員達は目を見開いて、瞳を揺らした。誰もが絶対に間に合わないと諦めかけていた。ハッキングまでされて、奈落の底に突き落とされた気分だった。  それなのに目の前の千愛希は自信に満ち溢れている。彼女を見ていると、可能だと思えるのだから不思議だ。  あれほどバカにしてきた千愛希のことだが、実のところは誰も千愛希と一緒に働いたことはない。いつも社長の側にくっついているイメージだったから、プログラマーとして働いている姿を誰も目にしたことがなかったのだ。  ここへきてようやく千愛希のアプリゲームの存在が大きく見えた気がした。  不覚にも、その姿がカッコいいと思ってしまったことなど絶対に口を滑らせてはいけないと、誰1人口を開かなかった。 「さぁ、行った、行った」  千愛希はしっしっと手を払うような仕草を見せる。社員達は顔を見合わせ、睦月の反応を伺った。 「……皆、すまない。こんな事態になったのもプロデューサーとしての俺が至らなかったせいだ。土浦の言った通り、俺も少し彼女と今後のことについて考えてみる。俺も、きみ達もこんな状態では適切な判断なんてできないだろう……こんな時期だからこそ今はゆっくり休んでくれ。4日後、また俺に力を貸してくれたら助かる」  副社長兼プロデューサーという立場で時には自らプランナーもプログラマーとしても動く睦月に頭を下げられては、社員達も嫌とは言えなかった。  彼らも睦月を慕ってついてきた人間達だ。  その場を治め、社員達はぞろぞろと帰宅していった。  最後の1人が出てった後、「曽根さん、あなたも一度帰宅してシャワーを浴びてきて下さい。非常に不潔です」と千愛希は言った。
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