見据える未来、払拭できない過去

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 仕事を減らして家にいる時間を作ってくれないかと頼んだ時、千愛希は困惑した表情を見せつつも、最後には頷いてくれた。  千愛希との子供も欲しかったし、千愛希がプロデューサー業に回ってくれるなら、自分もプレイヤーとして動くのはそろそろやめにしてプロデューサーに専念しようと考えていた。  そうすれば今よりはお互いに時間もできて、一緒に夕食を摂ることも可能だと思っていた。  しかし、一向に仕事量を減らす素振りのない千愛希。睦月は一緒に住み始めたら、毎日でも千愛希と一緒にいたかった。  あんなに結婚を喜んでくれたんだ。仕事が大事なのもわかる……。でも、母さん達が言うように、俺達の子供のことも俺と過ごす時間のことも考えて欲しい。  そう思った睦月だったが、その素直な気持ちを千愛希にぶつけることができなかった。 「もういいよ。俺が好きになったのは、仕事を頑張る千愛希だもんな。千愛希から仕事を奪おうとした俺が悪い。もう好きにするといいよ。結婚はなかったことにしよう」  そんなことを言うつもりはなかった。誰よりも千愛希のことを愛して、結婚までしたかったのだ。けれど、だからこそ千愛希と自分との温度差が切なかった。  結婚に対して浮かれているのは自分だけで、婚期に焦ってヒステリックになった女性のように千愛希を責めた。  売り言葉に買い言葉で思ってもいないことを言った。婚約破棄をつきつければ、千愛希が謝ってくるかと微かに期待した。  しかし、千愛希からの連絡はなかった。数日経ったら謝るタイミングを失った。それどころか睦月も仕事が忙しくなり、会えば確実に長話になるとわかっていて時間を確保するのも困難だった。
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