視線の先

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 律が東京のT大に行くらしいと担任から聞いた千愛希。一流大学へ行けるだけの頭脳があるのはわかりきっていた。 「あの守屋もT大受けるんだが、土浦もどうだ? お前の学力なら狙えると思うぞ。うちの高校から2人もT大生が出たら、先生達も鼻が高いな」  ズタズタに傷付いたプライドに塩を塗るような言葉。千愛希はこの担任のことも嫌いになった。 「受けません。彼と同じところには」 「ん? なんだ、そうか。じゃあ京都のK大にするか? 理系で受けるなら偏差値も変わらんしな」  かっかっかと冗談ぽく笑った担任。千愛希は、律と同じでなければどこでもいい。そう思い、軽はずみで言った担任の言葉通りK大を受け、すんなりと合格した。  K大に入学すれば、千愛希よりも学力の劣る者はわんさかいた。常に上位にいた千愛希はようやく自信を取り戻せたが、同時に律がとんでもないバケモノのようにも見えた。  きっとあの男には心がないんだわ。だって彼が笑ってるところなんて一度だって見たことはないし、プログラムされたAIかなんかじゃないかしら。  感情のない気味の悪い人形みたい。  そんなふうに千愛希は、時々律を思い出しては身震いをした。 「さて、と。お腹空いた? そろそろまどかさん来る頃だし降りる?」  ゲームのコントローラーを置いた律がふっと微笑んだ。  まさか律がこんなふうに笑う人間だったなんて、知らなかったな。  千愛希は、高校時代の律を思い出しては、現在の関係を不思議に思うのだった。
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