見据える未来、払拭できない過去

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 経営者が全員若者とあって、年功序列とは関係なく基本給、資格保持による能力給以外は完全歩合制の給料となっていた。  そのため、新入社員であろうと功績を治めた者にはそれなりの役職と昇給が与えられる。  キャリアだけではなく、その才能に眼を向けた会社であった。厳しい世界ではあるが、実力のある者にとっては自分の才能が形となるわかりやすいシステムであり、新入社員達の士気を高めるにも効果があった。 「ええ。私にとっても、実力ある社員にとってもとてもありがたい制度だと思いますよ。社長を初め、曽根さんや本間さんなど他の副社長達も全員が平等かつ適切に評価してくれますから、やりがいも上がるでしょう。でも、鍋田さんはどうでしょう。  全員がいなくなった後、彼の仕事を見させていただきました。もちろんプログラマーとしての腕はいいと思います。さすが、曽根さんの隣でずっと学んできただけのことはあります。  でもうちは……言われたことをこなすだけでは、評価は上がりません。もちろん、鍋田さんのようにコツコツと言われたことをひたすら頑張ってくれる社員も必要です。けれど……」 「ああ。そこまで言われれば、俺だって千愛希の言いたいことはわかるよ。俺の隣に7年もいて、成長を遂げまだ平社員であるのにも関わらず、同時期に入った千愛希が成功を収めたのが気に入らないってことだろ」 「はい。条件は同じくして入社したのに、私は曽根さんの婚約者で社長秘書でアプリの売上も右肩上がりです。それでいて私達が破局したものだから、鍋田さんの目には私が出世するために曽根さんを利用したように映っているんでしょう」 「利用って……誰がどう見たって千愛希の実力だってわかるだろうに」  睦月は、掌で目元を覆い大きく息を吐いた。
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