見据える未来、払拭できない過去

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「まぁ、鍋田さんの考えもわからなくはないんですよ。私は社長秘書ですから、本来アプリ制作を行う側の人間じゃありません。  私がシステムエンジニアになりたかったことも、プログラマーだってことを知らない人もいるわけですし……。そこへきて、秘書がぽっと出したアプリゲームが人気になれば、どんなコネを使って誰に作らせたんだって勘ぐられてもおかしくありません」 「まぁ……そうだけど」 「鍋田さんは、曽根さんに裏切られたような気持ちになったんじゃないですかね? 私が鍋田さんと言葉を交わした時、私はまだアプリを配信する前でしたし、曽根さんと付き合って2年くらいでしたし。  あの頃はまだ私のことを曽根さんの彼女で社長秘書。信頼している部下にその関係を教えてくれたくらいにしか思ってなかったと思います」  千愛希が話している途中で食事が運ばれてきたが、千愛希は続けた。睦月は、店員と軽くやり取りをして、再び視線を千愛希に戻した。 「……それでアプリが配信されたから、俺と拓也が千愛希を特別扱いしたと」 「ええ。更に破局になったから、私に利用されたバカな男達だと思われてるんですよ、きっと」  あーあ、と言った具合に千愛希がめんどくさそうな顔をしたものだから、睦月は思わず頬を緩めた。 「何笑ってるんですか。信頼してた部下に裏切られてるんですよ」 「そうだけど、千愛希が相変わらずだなって思って」  睦月がははっと笑うと、千愛希は怪訝な顔をする。千愛希は割りばしを真ん中で割ると、月見そばに薬味を入れて麺を解した。
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