見据える未来、払拭できない過去

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「とにかく、鍋田さんと向こうが繋がっているのは確かです。このまま一緒に作業していくわけにはいきませんよ」 「そうだな……鍋田とは俺が話し合うよ。それで、アプリの方は考えがあるのか?」 「あの場では別のアプリを、と言いましたがあれはあくまでも餌を撒いただけです。鍋田さん、私のことが気に入らなくても曽根さんには恩があるはずなのにさらっと辞めるなんて言ったじゃないですか? あれって、もう最初から辞めるつもりだったんだと思うんです」 「引き抜きの話があるからだろ?」 「ええ。でも、その条件の中にこちらのアプリの仕様書を横流しすることがあったとしたら、立派な犯罪です。双方とも」  千愛希はきらりと目を光らせた。睦月も大きく頷き、箸を取る。 「ここへ来たのは、もしかしたら事務所に盗聴器があるかもと思ったからです」 「盗聴器!?」  睦月は大声を上げて、腰を浮かせた。千愛希はとくに動じず蕎麦をすする。 「はい。とても探している暇なんてないので、そのまま黙々と作業をしましたがさすがにこの話を事務所でするにはリスクが高い。アプリについてはやはり私のゲームエンジンを使うことにします」 「お前な……そうは言ってもあれはお前にしか」 「だから3日いただいたんです。プログラムの内容を変更し、ある程度全員が使用できるよう調整します」 「……なんだと? 3日でか?」 「あくまでも今回限りです。でもそれが可能になれば、あちらは仮にこっちの仕様書が手に入っても特許を持っている私のゲームエンジンは使用できません」 「そう……だな」 「それから、作業も半分以下のスピードで終わりますから、予定配信日よりも前にこちらが配信してしまえばいいんです。こっちにはハッキングされた証拠があるんですから、向こうがデータを盗まれただなんて騒ぐこともできません」 「……なるほど。で、可能なのか?」  睦月は不安そうに眉を下げた。千愛希も同じように困ったような顔で「やるしかないでしょう。自信があるわけじゃないですが、絶対にできる自信があるとあの場で思わせなければ、社員達はきっともう頑張れなかったと思いますよ」と言った。 
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