見据える未来、払拭できない過去

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 すっと目の前で止まった長身の律に、道を塞がれた千愛希が怪訝そうに顔を上げた。けれど、すぐにそれが律だと気付くとぱあっと表情を明るくさせて「律!」と声を上げた。  睦月は知り合いか? と思いながら千愛希を見るが、その嬉しそうな顔にそっと息を飲んだ。すぐにその相手が男と知るや否や、ぐっと眉間に皺を寄せた。しかし、律の整った容姿にその表情も崩される。  こんなにも美しい男性は初めて見たとばかりに、睦月は呆然と律の顔を見つめた。 「すごい、偶然だね!」  弾んだ声で千愛希が言う。先程まで真剣な顔をしていたのに、普段通りの千愛希の姿に律も頬を緩めた。 「うん。クライアントのところから事務所に帰るところ」 「そうなんだ。私達も今から事務所に帰るところなの。あ、こちら上司の曽根さん」  千愛希はさらりと睦月を紹介した。目の前に彼氏、隣に元彼という非常に気まずい状況にも関わらず、仕事モードの千愛希には元彼以前に上司としての関係が上回る。  やましいこともない以上、千愛希が動揺するはずもない。まして、ここ最近ずっと律のことばかり考えていて、一昨日会ったばかりなのにもう既に会いたいと思っていたところに偶然会えたのだから嬉しい気持ちも相まった。 「あ、初めまして。曽根睦月と申します」  睦月が頭を下げた時、律はピクリと眉を動かした。  曽根……むつき? どこかで聞いたか?  記憶を辿るが直ぐには出てこない。記憶力のいい律でも興味のない人間のことを一々覚えてはいないし、直接関わったことのない人物なら尚更。それでも引っ掛かったということはなにかあるはずだ、と律は胸ポケットから名刺入れを取り出し、名刺を1枚睦月に差し出した。
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