見据える未来、払拭できない過去

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 そんな大崎が、ホームパーティーの場でポロッと溢していた。 「土浦の婚約者は俺の友人でもあって、2人が上手くいかなかったのも、俺に責任があるんですよ……」  酒の力も加わってそんなことを言ったのだ。その頃、律と千愛希はまだ友人関係だったし、大崎も「こんな友人がたくさんいて土浦も幸せだな」などと言っていた。  あの時、大崎さんは俺の友人って言ってたよな……。経営者は全員友人同士だったはず。だったらやっぱり4人の内の誰かが千愛希の元婚約者か……。  そう考える律の目の前で、千愛希が「律は私の彼なんです」と言ったものだから、律と睦月はピタリと動きを止めた。 「……え?」  ショックを隠しきれない睦月の表情。律はその顔を見逃したりはしない。  なんだ、やっぱり黒じゃん。そう思って目を細めた。 「ごめん、律。今から事務所に戻って仕事が山ほどあるの。暫く忙しくなると思う。また連絡する」  そう千愛希が切り上げようとする。律は軽く頷き、「わかった。頑張って」とだけ言った。  それから律と睦月はお互いに会釈をしてその場を後にする。  2人だけに戻った睦月は、千愛希に「彼って……彼氏ってこと?」と尋ねた。千愛希はぴくっと頬をひくつかせた。  そこ、触れてくるか……。まあ、ハッキリさせておいた方がいいよね。お互い気まずい中で仕事するのも嫌だし。といっても、睦月から私を振ったんだから今更、元彼も今彼もないだろうけど……。 「そうです。今は彼とお付き合いしているので、曽根さんも私と一緒に働くことを気まずいなどと思わなくても大丈夫です」 「あ、あぁ……そうだな」  睦月は乾いた笑いで笑顔を作るのに必死だった。  睦月の顔は不自然にひきつる。  彼氏……? あのモデルみたいな弁護士がか? あんな男と付き合ってんのかよ……。つーか、どこで見つけてくんだよ、あんな男!  気を遣わなくていい? 遣うに決まってんだろ!? 俺は今までずっとお前のこと好きだったんだぞ! 誰とも結婚する気もないんだと思ってたのに……仕事一筋の千愛希には勝手に彼氏なんていないと思ってた……。  あんな男と付き合ってるなんて……俺、立場ねぇじゃん……。  久しぶりに千愛希に会ったことで、潜めていた想いがどんどん膨れ上がっていた。部下達に見せた凛とした顔も、やるしかないと眉を下げた顔も、睦月がまだ千愛希のことを好きなのだと自覚させるには十分な表情だった。  それなのに、睦月に向けられたことのないようなあの嬉しそうな顔。まるで、恋する乙女のような目をしていた千愛希。自分と付き合っている時とは明らかに違うような気がした。あの男のことは本気で好きなのか? そう思ったら、悲しみと共に怒りさえも沸き上がった。
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