夕立ち

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夏海が驚いたのは、直美と一緒にいた男が、東山先輩だったことだ。 「ねえ、東山先輩よ」 由佳もそれに気づいたようで、夏海に耳打ちしてきた。 雨は降りしぶき、楼門の向拝からは、幾筋もの雨水がじゃぶじゃぶと垂れていて、神社の玉砂利を、洗っている。 東山先輩は、なかなか夏海たちには人気のある先輩で、友達は少なそうだし、何かの部活のエースというわけでもなく、いつもイヤフォンで洋楽を聴いていて、一匹狼感たっぷりで、少し頼りない感じが、母性をくすぐるのだ。 「仕方ないだろ、みんな雨宿りしてるんだから」 東山先輩は、わがままを言う直美に、声を抑えて、説得するように言っていた。 頼りない東山先輩は、眉を八の字にしながら、わがままな直美に狼狽えている。 それを見て、思わず夏海は口元を緩めてしまった。
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