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「僕らは、土砂に流されたんですよ」
冷たい声で、空洞な目が言う。
「ちょっと相川くん、それまずいよ」
玄関の方から声が聞こえてきた。
「先輩、また繰り返すんですか?もう何度繰り返したら気が済むんですか?」
繰り返す?
「ねえ、相川くんこれ何?あれも私達?」
私は必死に冷静な相川にぶつける。
あれが私だというならここにいる私は何?
「大丈夫ですよ先輩、今洋館に入って来たのも先輩ですよ。そして今ここに立っているのも先輩」
「えっ?何言って?」
目の前が酷く歪む。頭を下に向けると、雨で濡れていたと思ったスーツは赤黒い色をしている。
「先輩、これは現実では無いんですよ。自分の過ちを認めたくなかった先輩が創り出した幻。先輩あの時直ぐに電話を掛けて、車から避難すべきでしたね」
えっ?幻?相川くんも?じゃあ本当の私達は?
「先輩、まだあの車の中ですよ。真夏に冷え切った僕らの身体はまだあの車の中ですよ」
私の額から大量の赤い液体が流れてきた。
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