夏祭り

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中学3年生の夏。 悠とは、しばらく喋っていない。クラスが分かれて、接点が無くなったから。すれ違っても、目を合わせないことが多くなった。 喧嘩したとかではないのだけど、学力の差だとか、つるむ連中のタイプの違いとか、色々あって話しかけづらくなってしまったのだ。 それに、異性ということもあって、友達の前で話しかけづらいのだ。 もう、卒業まで話すことないかな、と思っていたときだった。 母さんから、悠が東京の高校に行くことを聞いた。 そして、寮に入るのではなくて、向こうに引っ越すことも。 初耳だった。 お母さんは、悠のお母さんから聞いたらしい。 「あら、聞いてなかった?」 そう尋ねる母さんに 「まあ、最近あんま喋んないし。」 言う程のことでもなかったんじゃない?と他人事のようにいった。 少し過剰なくらい冷たく言い放ち、自分の部屋に行く。 お母さんが、あらまあ、とか言ってたけど、無視だ。無視。 部屋に入り、ベッドに身を投げる。 地元とか県内の高校行くならまだしも、東京って。 しかも、引っ越しでしょ? ラインで言ってくれるだけでも良かったのに。 それとも、これ、私が自分勝手なだけ? 喋らなくなったけど、一応幼なじみじゃない。 まあでも、中学生になってからはあんま喋ってないし。 そう自分に言い聞かせるものの、いつまで経ってももやもやして落ち着かない。何かが引っかかっているようで気持ち悪い。 もう寝よう。寝て、忘れよう。 どうせ、明日は終業式だ。 夏休みの間は、顔を見なくて済むだろう。 それから一週間後の夜。ピコンッとメッセージが来た。 もう10時半。この時間に連絡して来そうなクラスメイトを思い浮かべてスマホを開く。 しかし、画面を見た瞬間、頭に浮かんでいた顔が消え、しばらく喋っていないあいつの顔が浮かんできた。 『いま、電話できる?』 中学に上がってから、学校ですれ違っても、なんだか気恥ずかしくて、どう声をかければいいかわからなくて、結局そのまま通りすぎてしまっていた。 もう、話すことは、卒業までないものだと思っていた。 なのに、こんな一言だけで、もう一度話せるようになるなんて。 ・・・・・わたしの苦悩を返せ。 少しイラッときたが、またとない機会を逃しすわけにはいかない。 これを逃せば、この心のもやもやはずっと晴れないだろう。 『できるよ』 そう返信して、電話を待つ。 1分もしないうちに、かかって来た。   『もしもし、鈴?』 「うん。どうしたの?」 一週間前にお母さんとした会話を思い出し、タイミングがいいな、と思う。 『鈴のお母さんから、俺の進路のことで鈴が拗ねてるって聞いて』 お母さん。何言ってくれてるんですか。 「いや別に拗ねてないし興味もないしどうするかは悠の自由でしょ」 『はは。怒ると一息で全部言う癖、そのまんまだ』 「3年間でそう変わるもんですか。ていうか、怒ってない」 『そう?まあ、それならそれでいいんだけど』 「で?電話してきたのはわざわざ私をからかうため?」 『違う違う。あの、ね、ちょっと改まっていうのは照れるんだけどね』 そう言いながらも、声に笑いが入っているのを、私は聞き逃さない。 本当になんなんだこいつ。 『夏祭り、一緒に行きませんか?』
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