夏祭り

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小学3年生の夏、初めて子ども2人だけで夏祭りに行った。 家の近くの公園で行われた、小さな夏祭り。 飾られた提灯も屋台の数も少なかったけど、まだ小さかったわたしにはまる で、違う世界のように見えた。 わたしは、その世界の入り口、公園の前で幼なじみの悠を待っていた。 待っている間、同じクラスの仲良い子が何人かいたけれど、少し話したらすぐにお祭りの中に行ってしまった。 待ち合わせの時間まで、あと2分になった。 でも、悠の姿は見えない。 待ち合わせの時間になり、祭囃子が聞こえてきた。 でも、悠は来ない。 『来ないのかな』 ひとり、つぶやいた。 悠が約束を破るなんてことをするはずがない。 だから、わたしは悠が来れない理由を考えた。 約束、忘れちゃったのかな、とか、何かやらなくちゃいけないことができたのかな、とか。 結局、きっと熱を出してしまったんだろう、という結論にいたり、悠の家に行くことにした。 楽しげな音楽に後ろ髪を引かれながらも、歩き出したときだった。 「鈴、まって!」 大きな声で呼び止められ振り返ってみると、そこには両手にわたあめを持った悠がいた。 「ごめん。わたあめ、売ってたから。好きって言ってたから。鈴、喜ぶかなって、笑ってくれるかなって思って。」 悠は、以前わたしが話したお父さんとの思い出のことを覚えていたらしく、早くついたから、2人分わたあめを買っておこう。と思ったものの、予想以上に時間がかかってしまったとのこと。 わたあめを受け取ったわたしは、なんだか面白くて、わたしは思わず笑ってしまった。 だって、話をしたのは半年くらい前のことでよく覚えてるな、と思ったから。 お父さんとお祭りに来たのは、五歳のときだった。 初めてのお祭りは、楽しいというよりも、怖かったのを覚えている。 公園前まではうきうきしていたのに、公園に入った途端に泣き出してしまった。 お祭りの日の公園と普段の公園が、あまりにも違いすぎて、びっくりしてしまったのだ。 泣き止む気配が見えないわたしに、お父さんが買ってくれたのが、わたあめだった。 わたあめを見たことことがなかったわたしに、お父さんは 「それは、雲のかけらなんだよ。すーちゃんが泣いてるから、元気出してって、特別にもらって来たんだ。」 と、わたあめを渡した。 "特別"という言葉が嬉しくて、わたしは泣き止み、笑顔になった。 お父さんの作戦は、大成功を収めたのだ。 それ以来、わたあめはわたしの特別なものになっている。 もうお父さんと一緒に来れないんだな、と思うと涙がこぼれてしまった。 それは、しばらく止まらなかった。 その間、悠はずっとわたしの手を強くにぎっててくれた。 今思うと、かなり恥ずかしいけど、この祭り以降、わたしと悠の絆はより一層深くなった気がした。
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