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二人とも黙り込んだその先で彼がぽつりと零したその声は、悔しさと苦しさを煮詰めて閉じ込めたような苦さがあった。
座るか、とかけた声に彼女が頷くのを見届けた彼は、いつも寄り道する公園を指し示した後に向かいのコンビニに入っていった。ややあって出てきた彼の手に握られていたのはミックスジュースが2本と、なぜか林檎。田舎特有のおすそ分けだろう。
赤いのかオレンジなのかわからないそれはつやつやと見事に輝いていて、彼女は目を背けたくなった。そのまま視線を巡らせて、痛い橙を遮ることができるような影を探すとたまたまベンチが一つ、ほどよく陰に隠れていた。
「ブレスはしない方が速くなるから、苦しいものではあるよそりゃあ」
一口含むとくせになる甘ったるさが喉を抜けて消えていった。苦みは舌先に残ったまま、飲み込めないでいた。
「でもさ、特に野外で泳いでると、水ん中めっちゃきらきらすんだよね。俺はあれが好きで、だからくぐもってても、苦しくても、水に潜るんだと思う」
「きらきら?」
「そ、光と水でゆらゆらゆれて、あの瞬間が一番好きだな。今度一緒に潜る?」
「できるのなら明日にでも」
「土曜だけど」
「練習するんでしょ?」
「するけどコーチんとこ行くから」
「だめ?」
「…聞いてみる」
『水の戯れ』もきらきらとした曲だ。揺らめいて、煌めいて、今の私たちにはきっと眩しすぎる。彼がコーチにメッセージを送っているすきに、一緒にもらってきていた林檎にかじりついた。見た目よりも硬くて甘くなくて、こんなもんか、と胸の中で落胆と安堵が広がった。
もうすぐ陽が沈む。
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