夕立

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 雨上がりの街を太陽はキラキラと輝かせている。濡れたコンクリートからは暖かい蒸気が上がるのが見える。  だから今日も椅子を探して二人で歩く。雨が降っていても椅子を探して歩くこともあるし、彼女は全く気にせず誘ってくるが、僕はまだ彼女ほど雨が好きにはなれない。  僕らはゴミ捨て場にある椅子を探してそこに座って写真撮影をするというのが趣味になり、時々何時間も歩き回るのだ。それでも見つからずに帰って来ることもあるが、だからこそ見つけたときの感動がある。  今日も二時間歩き続けやっと、まだ使えそうな、スツールという背もたれがない椅子を見つけた。彼女に座らせ、僕は少し離れてスマートフォンのカメラの画面を見る。すると雨が突然振ってきた。でも僕は濡れず、画面の中だけで降っている。彼女の上にだけ雨が降り、それはどんどんひどくなり、彼女の姿が確認出来なくなる程になった。 僕はスマートフォンを投げ捨て彼女に駆け寄る。  それは雨というより滝になっていて、何故かその中に入ることができなかった。    数分後その雨が上がると、椅子だけが残されていた。
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