夕立

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   僕は彼女に髪を切ってもらうために半年間散髪しなかった。彼女のハサミ使いは様になっている。 「切るのうまいね。習ってた?」 「美容学校行こうと思ってたこともあったよ」  小学生の頃、いつもお菓子の入ったポーチを持ち歩いている子がいた。その子は絶対それを離したりはしない。きっと崖から落ちそうな状況でも離しはしないだろう。どこに行くにもその子とポーチは一心同体だった。  そんな彼を僕は内心馬鹿にしていたし、時々口にも出していた。けれど、みんなそのお菓子を貰いに行っていたし、僕もそのうちの一人だった。馬鹿にしながらもお菓子を貰う、そんなことが許されるのか疑問に思った。  翌日、僕は坊主頭になっていた。おしゃれ坊主などではない。ただの坊主頭だ。まあどちらでも良いが、ストレートで、混じりけもひねくれもない坊主頭なだけマシかもしれない。
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