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予想に違わず、屈強な男が場を取り仕切っていた。
『斬れ』
俺は畳を足で蹴り、感撃丸を大きく振りかざす。
しかし、男は気絶しなかった。それどころか、木刀が身体に当たってすらいない。
「私は剣道8段だ。誰だか知らんが、舐めるなよ」
感撃丸は菜箸によって物の見事に摘ままれていたのだ。
真剣白刃取りの究極系を目の当たりにして狼狽えた俺を、
男は菜箸の突きだけで店外へ吹き飛ばした。
紛いなき最強の有難迷惑である。
俺も巻き返しを試みるも、次は鍋蓋に全攻撃を防がれてしまった。
もう打つ手はない。諦めが頭をよぎったそのとき、俄か雨が降り始めた。
雨粒は髪を伝い、肩に垂れ、爪先に跳ねる。
潤いを得た瞳で空を仰いだ。重なる雲が薄黒い。
夕立を全身に浴びながら、潔く感撃丸を腰に収めた。
『おい、どうした? なぜ敵を斬ろうとしない?』
感撃丸が再度俺の身体を乗っ取ろうとするが、俺はそれを難なく跳ね除けた。
男に深々と一礼すると、俺は覚えず商店街の外へ駆け出していた。
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