59人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
スーツを脱ぎながら部屋に入る俺を正面から迎え入れたのは、
床の間に仰々しく飾ってある一口の木刀。
うんと昔に父から譲り受けた由緒正しき代物で、名を”感撃丸”と言うそうな。
当時は剣術の稽古に用いられたらしいが、今は専ら観賞用となっている。
スーツの片袖に腕を通したまま、俺は何気なく感撃丸を手に取った。
普段はインテリアの一つと捉えて見向きもしなかったのに。
置き場所が定位置から少しずれていたからだろうか。
それとも、内に秘める強烈なオーラに引き寄せられたのだろうか。
どちらにせよ、衝動的行動であった。
「うわぁ!」
柄に手を掛けた途端、全身を電流が走るような感覚に襲われた。
俺は驚きのあまり、尻もちをついて後退りする。
「何だ、これは……」
二度見したところで、右手に収まっている木刀に何の変哲も見当たりはしない。
気のせいとは思えなかったが、現実こそが最も信憑性のある証拠だ。
今日はやはり特にくたびれているのだ、と結論付けることにした。
「大丈夫?」
台所から飛んできた妻の声には、「うん」と返すだけで済ませてしまった。
プラモデルがない。作りかけの状態で部屋の隅に集めておいた、
スポーツカーのプラモデルがどこにもない。
続いてすぐその異変に気を取られ、他の事を受け入れる余裕がなかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!