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 スーツを脱ぎながら部屋に入る俺を正面から迎え入れたのは、 床の間に仰々しく飾ってある一口の木刀。 うんと昔に父から譲り受けた由緒正しき代物で、名を”感撃丸”と言うそうな。 当時は剣術の稽古に用いられたらしいが、今は専ら観賞用となっている。  スーツの片袖に腕を通したまま、俺は何気なく感撃丸を手に取った。 普段はインテリアの一つと捉えて見向きもしなかったのに。 置き場所が定位置から少しずれていたからだろうか。 それとも、内に秘める強烈なオーラに引き寄せられたのだろうか。 どちらにせよ、衝動的行動であった。 「うわぁ!」 (つか)に手を掛けた途端、全身を電流が走るような感覚に襲われた。 俺は驚きのあまり、尻もちをついて後退りする。 「何だ、これは……」 二度見したところで、右手に収まっている木刀に何の変哲も見当たりはしない。 気のせいとは思えなかったが、現実こそが最も信憑性のある証拠だ。 今日はやはり特にくたびれているのだ、と結論付けることにした。 「大丈夫?」 台所から飛んできた妻の声には、「うん」と返すだけで済ませてしまった。 プラモデルがない。作りかけの状態で部屋の隅に集めておいた、 スポーツカーのプラモデルがどこにもない。 続いてすぐその異変に気を取られ、他の事を受け入れる余裕がなかったのだ。
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